検定では、仮説を2つ対にして立てます。帰無仮説 は「母平均は 100 である」「2つの群に差はない」のような基準側の主張で、この仮説のもとでデータの起こりにくさを計算します。対立仮説 は と対になる主張です。研究目的によっては を維持したい場合もあり、棄却を期待するかどうかは定義に含まれません。
| 帰無仮説 | 対立仮説 | |
|---|---|---|
| 書く内容 | 「差はない」「基準以上」など、境界を含む基準側の主張 | 「差がある」「基準未満」など、帰無仮説と対になる主張 |
| 母数の定まり方 | 1つの値を置く単純仮説と、範囲を置く複合仮説がある | 両側または片側の問いに応じて、帰無仮説の外側を表す |
| 検定での役割 | 確率計算の土台。この仮定のもとで起こりにくさを測る | 確率計算には使わない。棄却したときに向かう方向だけを決める |
| 結論の述べ方 | 棄却する/棄却しない | を棄却したときに採用する |
新しい薬が従来の薬より血圧をよく下げるか調べるなら、 は「下がり方は従来の薬と同じ」、 は「新しい薬のほうがよく下げる」と置けます。一方、製造工程が基準どおりか確かめる検定では、基準どおりという を棄却しない結果が望ましいこともあります。どちらの場合も、検定が直接判定するのは を棄却できるかどうかです。
等号を含む境界は 側に置きます。両側検定では と 、下側の片側検定では と のように書けます。前者の は値が1つの単純仮説、後者は範囲を含む複合仮説です。初等的な計算では、片側検定でも境界値だけを と略記することがあります。両向きか片方だけかの違いは 両側検定と片側検定 で扱います。
を棄却できなかったとき、「 が正しいと確かめられた」と読むのは誤りです。言えるのは、手元のデータでは を捨てるだけの材料が出なかった、ということだけ。裁判で有罪を立証できなかったことが無実の証明にはならないのと、同じ関係です。標本が小さければ、本当に差があっても棄却できないことは珍しくありません。
検定を組み立てるときは、知りたい方向に合わせて と が母数の範囲を重なりなく分けるように置きます。境界をどちらへ含めるか、両側と片側のどちらを使うかを先に決めてから、検定統計量を計算します。
ある高校の生徒の通学時間は、これまでの調査で平均 20 分でした。新しいバス路線が開通したあと、40 人を無作為に選んで測ると平均は 18 分。路線のおかげで短くなったと言ってよいでしょうか。
示したいのは「短くなった」ですから、これを対立仮説に置いて 、帰無仮説は とします。18 分という値が、母平均が 20 分のままでも出うる程度のずれなのかを、この のもとで計算することになります。
この下側検定を範囲まで明記するなら、、 です。通常の母平均の検定では、帰無仮説のうち棄却されやすさの境目になる で確率を計算します。そのため、初等的な計算では帰無仮説を と略記できます。
なお、知りたいことが「短くなったか」ではなく「変わったか」であれば、対立仮説は になります。同じ 18 分というデータでも、問いを変えれば棄却の判定に使う境目が変わります。仮説の書き分けは、計算に入る前の準備であると同時に、何を知りたいのかの表明でもあります。
帰無仮説の説明として最も適切なものはどれですか。
新しい肥料を使うと収穫量が増えるかどうかを検定します。これまでの平均収穫量は 1 区画あたり 50 kg でした。仮説の置き方として最も適切なものはどれですか。
有意水準 5% の検定で帰無仮説を棄却できませんでした。この結果から言えることは何ですか。