検定は確率にもとづく判断なので、手続きを正しく踏んでも結論を誤ることがあります。誤り方は2通りです。帰無仮説が正しいのに棄却してしまうのが第1種の過誤、帰無仮説が誤りなのに棄却しないのが第2種の過誤。前者は無いものを有ると言う誤り、後者は有るものを見落とす誤りにあたります。
| を棄却しない | を棄却する | |
|---|---|---|
| が正しい | 正しい判断(確率 ) | 第1種の過誤(確率 ) |
| が誤り | 第2種の過誤(確率 ) | 正しい判断(確率 ) |
2つは対等ではありません。 は検定する側が先に選べる値で、5% と決めればそれがそのまま第1種の過誤の確率になります。ところが は1つの数値に決まりません。「差がある」と一口に言っても、真の母数が のすぐ隣なのか遠く離れているのかで、見落としやすさが変わるからです。 と引数を付けて書くのは、想定する値ごとに違う値になることを示すためです。
しかも2つを同時に小さくすることはできません。棄却域を狭めれば は下がりますが、そのぶん棄却しにくくなるので は上がります。逆も同じです。標本の大きさを変えずに片方を減らせば、必ずもう片方が増える。両方を下げるには、標本を大きくして分布の幅そのものを狭めるのが基本になります(検出力)。
では を 5% にするか 1% にするか、どちらが正しいのか。これは計算では決まりません。病気の見落としと不要な精密検査、どちらの痛みが大きいか——統計の外側にある事情を持ち込んで決める判断です。
画鋲を投げると、確率 0.62 で針が上を向くと言われています。手元の画鋲もそうなのかを、3回投げて確かめる検定を考えます。3回とも上向き、または3回とも下向きだったときに を棄却する、という約束にします。
第1種の過誤の確率は、 が正しいのに棄却してしまう確率、つまりこの2つの出方が起こる確率です。。5% どころか3割近くあります。3回では極端な出方が珍しくないので、検定としては誤りやすすぎるわけです。
第2種の過誤の確率のほうは、真の確率がいくつなのかを決めなければ計算できません。真の をいくつか置いて、棄却する確率とその余事象を並べてみます。
| 真の確率 | |||
|---|---|---|---|
| 棄却する確率 | 0.250 | 0.520 | 0.730 |
| 第2種の過誤の確率 | 0.750 | 0.480 | 0.270 |
真の確率が 0.62 から遠い 0.9 なら見落としは 0.270 で済みますが、近い 0.5 では 0.750 も見落とします。 が「対立仮説のどの値を想定するか」で決まるとは、こういうことです。棄却する確率と は足して 1 になる関係なので、片方が下がれば他方は上がります。両方を下げたければ、回数を増やしたうえで棄却の規則を組み直すことになります。3回という回数そのものが、この検定の粗さの原因です。
第1種の過誤の説明として最も適切なものはどれですか。
画鋲を投げると確率 0.62 で針が上を向くとします。3回投げて「3回とも上向き」または「3回とも下向き」のときに帰無仮説 を棄却する検定を考えます。第1種の過誤の確率はいくつですか。
標本の大きさを変えずに、棄却域を狭めて帰無仮説を棄却しにくくしました。第1種の過誤の確率 と第2種の過誤の確率 はそれぞれどう変わりますか。