推定量の期待値が、狙っている母数とぴたりと一致する。この性質を不偏性といい、不偏性を持つ推定量を不偏推定量と呼びます。
期待値と母数の差 を偏りといい、不偏推定量とは偏りが 0 の推定量のことです。ここを「1回の推定で当たる」と読み替えてはいけません。当たるのではなく、外し方が上下に均等で、何度も繰り返せば行き過ぎと足りなさが帳消しになる、という意味です。標本平均 は母平均の、標本比率 は母比率の、不偏分散 は母分散の不偏推定量です。
ここからは を独立同分布の無作為標本とします。なぜ母分散の推定で で割るのかを、この条件のもとで導きます。
左辺の期待値は 、右端の項の期待値は です。したがって真ん中の項、つまり標本平均のまわりで測った2乗和の期待値は にとどまります。標本平均は手元のデータに合わせて動くので、偏差はどうしても小さめに出る。足りない分がちょうど なので、 ではなく で割れば期待値が に戻ります。
なお、不偏推定量は1つに決まりません。標本の最初の1個 も を満たすので、母平均の不偏推定量です。ただし 一致性 のページで見たとおり、 は標本をいくら大きくしても母平均に近づきません。不偏であることは推定量に求める条件のひとつにすぎず、複数あるなら分散の小さいほうを選ぶ——という順序で絞り込んでいきます。
が母分散の不偏推定量だからといって、その平方根 が母標準偏差の不偏推定量になるわけではありません。平方根を取る操作で期待値の関係は崩れ、 は より小さくなります。2乗の世界で合わせた釣り合いは、平方根の世界へは持ち越せません。
母集団を 1, 2, 3 の3つの数だけにして、取り方を全部書き出します。母平均は 2、母分散は 。ここから1つ選んで元に戻し、それを2回繰り返します。取り方は 通りで、どれも同じ確率です。
のとき偏差は2つの値の差を半分にした形になるので、2乗和は差の2乗の半分です。それを で割った不偏分散 は、9通りで次の値になります。
| 1回目 | 1 | 2 | 3 |
|---|---|---|---|
| 1 | 0 | 0.5 | 2 |
| 2 | 0.5 | 0 | 0.5 |
| 3 | 2 | 0.5 | 0 |
9つの平均を取ると 。母分散とぴたり一致しました。個々の値は 0 だったり 2 だったりと母分散から大きく外れているのに、平均すると戻ってくる——これが不偏性の見え方です。
比べるために、同じ9通りを で割った標本分散でも並べてみます。
| 1回目 | 1 | 2 | 3 |
|---|---|---|---|
| 1 | 0 | 0.25 | 1 |
| 2 | 0.25 | 0 | 0.25 |
| 3 | 1 | 0.25 | 0 |
平均は で、母分散の半分です。 倍という先の理屈どおりで、 は取りこぼしがもっとも大きく出る場合にあたります。
標本平均のほうも見ておきます。9通りの標本平均は 1, 1.5, 2, 1.5, 2, 2.5, 2, 2.5, 3 で、その平均は 。母平均と一致し、標本平均が不偏推定量であることも確かめられました。
最後に平方根です。9通りの は 0, 約 0.707, 約 1.414 のいずれかで、平均は約 0.629。母標準偏差 には届いていません。 では合っていたのに では合わない、という先の注意が数値で出た形です。
推定量が不偏性を持つとは、どういうことですか。
正規母集団から大きさ の独立同分布な無作為標本を取り、偏差の2乗和を で割った値の期待値はどれになりますか。
不偏推定量について正しいものはどれですか。
不偏分散 は母分散 の不偏推定量です。ではその平方根 について、正しいものはどれですか。