正規分布 なら「平均から標準偏差2つぶんの範囲に約95%が入る」と言えました。では、分布の形がまったく分からないときは何も言えないのでしょうか。実は、平均と標準偏差さえ分かっていれば、形を問わず成り立つ言い分があります。
有限な平均 と、 を満たす標準偏差 をもつ確率変数 について、任意の で次が成り立ちます。
平均から標準偏差 個ぶん以上離れる確率は、多くても にしかならない。裏返せば、 の範囲に少なくとも は入る、ということです。分布が左右対称でも、裾を引いていても、山が2つあっても成り立ちます。
では となり、「確率は1以下」という当たり前のことしか言っていません。式そのものは でも成り立っていますが、中身のある主張になるのは 、つまり標準偏差1つぶんより外側を問うときだけです。
ただし、その代償として言えることはかなり弱くなります。正規分布のときの実際の値と並べてみます。
| k = 2 | k = 3 | k = 4 | |
|---|---|---|---|
| チェビシェフの上限 | 0.2500 | 0.1111 | 0.0625 |
| 正規分布での実際 | 0.0455 | 0.0027 | 0.0001 |
で比べると、上限は 0.111 なのに正規分布での実際は 0.003 と、40倍近い開きがあります。この緩さは欠陥ではなく設計どおりです。あらゆる分布に通用させる以上、最も都合の悪い場合に合わせるほかありません。分布の形が分かっているなら、その分布から直接求めたほうがはるかに鋭い答えが出ます。
あるテストの平均が 50 点、標準偏差が 5 点だと分かっています。得点の分布がどんな形かは知りません。この状態で、35 点から 65 点のあいだにいる人の割合について何が言えるでしょうか。
35 と 65 は平均からちょうど 15 点、標準偏差 3 個ぶん離れた位置なので です。外側にいる割合は多くても 、したがって内側には少なくとも 、およそ89%が入ります。
同じように 40 点から 60 点なら で、少なくとも 。分布の形をひとつも仮定せずに、ここまでは言い切れます。
この「少なくとも」を「ちょうど」と読み替えてはいけません。得点が正規分布に従うなら実際には 99.7% と 95.4% が入るので、89% や 75% という数字は大きく下回っています。不等式が保証しているのは下限であって、実際の値ではないからです。
とはいえ、この下限がゆるみきっているわけでもありません。次の3つの値しかとらない分布を考えます。
| とる値 | 40 | 50 | 60 |
|---|---|---|---|
| 確率 | 1/8 | 3/4 | 1/8 |
平均は 50、分散は なので標準偏差は 5 で、先ほどのテストと同じ条件です。しかし の外側にいる確率は で、上限 にぴったり届いています。
つまり、これ以上きつい上限を「どんな分布でも」と言い切ることはできません。ゆるく見えるのは、こういう極端な分布まで含めて成り立たせているからです。
ある製品の重さは平均 100 g、標準偏差 8 g です。分布の形は分かっていません。80 gから120 gに入る割合について、チェビシェフの不等式から得られる最も強い保証はどれですか。
チェビシェフの不等式についての説明として正しいものはどれですか。
平均 20、標準偏差 3 の分布について、チェビシェフの不等式から「少なくとも が入る」と言える範囲はどれですか。
分布の形が分からない量について、 の範囲に少なくとも 96% が入ることを保証したいとします。 はいくつ以上必要ですか。