ある工場では、内容量 500 mL と表示した飲料を詰めています。抜き取った 25 本の平均が 497 mL だったとき、機械が狂っていると言ってよいでしょうか。詰める量は1本ごとにばらつくので、機械が正常でも平均が 500 mL ちょうどに揃うことはまずありません。3 mL のずれがばらつきの範囲内なのか、それを超えているのか。数字を眺めるだけでは決着がつきません。
そこで、まず比較の基準となる帰無仮説を置きます。この例なら「機械は基準どおりで、母平均は 500 mL である」です。その仮説のもとで 497 mL、またはそれ以上に極端な結果がどれくらい起こりにくいかを計算し、あらかじめ定めた基準より珍しければ帰無仮説を棄却します。このように、帰無仮説のもとで誤って棄却する確率を制御しながら、母集団について判断する手続きを仮説検定といいます。帰無仮説は「示したい主張の否定」と機械的に決めるものではなく、基準・現状・差がない状態など、検定で誤棄却を管理したい仮説として設定します。
この例の は母数を1つの値に定める単純仮説なので、検定統計量の分布を直接定められます。一方、片側検定では のように複数の値を含む複合仮説も使います。その場合も、帰無仮説に含まれる範囲で誤って棄却する確率が有意水準を超えないよう、境界など最も棄却されやすい場合を基準に棄却域を決めます。帰無仮説は、必ず1点でなければならないわけでも、必ず「示したい主張の否定」と呼べるわけでもありません。
有意水準を先に決めるのは、後出しを封じるためです。計算結果を見てから 5% を 10% に緩めれば、どんなデータでも棄却できてしまいます。基準を置いてからデータを当てはめる、というこの順序が守られて初めて、5% という数字が意味を持ちます。
したがって、検定が返す答えは「主張が正しい/間違っている」ではありません。あらかじめ置いた基準に照らして、この結果を偶然で片づけてよいかどうか——その一点だけです。母数ごとの具体的な計算は 母平均の検定 以降で扱いますが、段取りはどれもここで見た4つの流れをたどります。
ある人が「2種類の炭酸水を飲み分けられる」と言います。本当かどうかを、目隠しでコップを1杯ずつ出し、どちらの銘柄かを当ててもらう形で確かめます。
当てずっぽうに答えても、1杯あたりの正解率は になります。そこで 「当てずっぽうで答えている」を置き、「飲み分けられる」を対立仮説にします。有意水準は 5% としておきます。
5杯出して5杯とも当てたとしましょう。当てずっぽうで、これ以上ないほど極端なこの結果が起こる確率は です。5% より小さいので を棄却します。「まぐれで全部当たった」で押し通すには苦しい、という判断になります。
ところが4杯で4杯とも当てた場合は となり、5% を超えるので棄却できません。同じ「全部正解」でも、回数が足りなければ偶然の範囲に収まってしまう。何杯試すかという設計そのものが、結論を出せるかどうかを左右します。
仮説検定の進め方として最も適切なものはどれですか。
有意水準は、どの時点で決めるものですか。
2種類の炭酸水を目隠しで飲み分けられるかを調べます。当てずっぽうなら1杯あたりの正解率は 1/2 です。5杯出して5杯とも当てる確率はいくつですか。