手元のデータについては、共分散 と 相関係数 をすでに扱いました。あちらは観測した n 組の値から計算するものでした。同じ量を、まだ観測していない2つの確率変数について定めることもできます。データの平均を期待値に置き換えるだけです。
Cov(X,Y)=E[(X−E(X))(Y−E(Y))]=E(XY)−E(X)E(Y) Cov(X,Y):X と Y の共分散、E(XY):積 XY の期待値 右側の形が実用的です。「積の期待値から、期待値の積を引く」。V(X)=E(X2)−{E(X)}2 と同じ構造で、実際 Y を X に置き換えれば分散の式に戻ります。共分散は分散を2変数に広げたものだ、と見ておくと関係が整理できます。
ただし共分散の値そのものは、単位のとり方しだいで大きくも小さくもなります。そこで、それぞれの標準偏差で割って単位を消したものが相関係数です。データについて計算するときは r と書きましたが、確率変数のほうは ρ を使うのが慣用です。
ρ(X,Y)=V(X)V(Y)Cov(X,Y) ρ(X,Y):V(X)>0, V(Y)>0 のときの相関係数。−1 以上 1 以下 1次変換を施したときの振る舞いも押さえておきます。U=aX+b、W=cY+d とすると、共分散は係数の積だけ倍になり、定数項は影響しません。
Cov(U,W)=acCov(X,Y) a=0, c=0 なら、相関係数の分母の標準偏差も ∣a∣・∣c∣ 倍になるため、大きさは変わりません。ac が正なら相関係数はそのまま、負なら符号が反転します。aまたはcが0なら変換後の分散が0となり、相関係数は定義できません。
共分散が 0 であること(無相関)と、独立であることは同じではありません。独立なら必ず共分散は 0 になりますが、逆は成り立ちません。たとえば X が −1,0,1 を等確率でとり Y=X2 とすると、Y は X から完全に決まるのに共分散は 0 です。共分散が拾えるのは直線的な関係だけだからです。
積の期待値から共分散を出し、変換の影響を見る
E(X)=2.0、E(Y)=3.0、E(XY)=6.3、V(X)=V(Y)=1 とします。共分散は 6.3−2.0×3.0=0.3。分散がどちらも1なので、相関係数も ρ=1×10.3=0.3 と同じ値になります。
ここで U=3X−2、W=−2Y−4 と変換します。共分散は係数の積だけ倍になるので 3×(−2)×0.3=−1.8。値が6倍に膨らみ、符号も逆になりました。
相関係数のほうは −0.3 です。絶対値は 0.3 のまま、符号だけが 3×(−2)<0 を受けて反転しています。共分散の −1.8 という数字は変換の仕方に振り回されていますが、相関係数のほうは関係の強さだけを保っています。単位を消すことの意味がここに出ています。
平均は個々の変数より、その平均自身とよく相関する
標準化した3科目の得点 X1,X2,X3 を考えます。分散はどれも1、どの2科目の相関も 0.5(分散が1なので共分散も同じ値) だとして、3科目の平均 Y=3X1+X2+X3 と、1科目 X1 の相関を求めます。
共分散は分配できるので Cov(X1,Y)=31+0.5+0.5=32(自分自身との共分散は分散の1)。Y の分散は、3つの分散と3組の共分散から V(Y)=93+2×0.5×3=96=32 です。
よって相関係数は 1×2/32/3=32≈0.82。科目どうしの相関は 0.5 しかないのに、1科目と3科目平均の相関は 0.82 まで上がりました。平均には X1 自身が含まれているうえ、他2科目の偶然のぶれが互いに相殺されて薄まるためです。合計点や平均点が個々の科目より安定した指標になる理由が、この数字に表れています。