世帯の所得は右へ長い裾を引きますし、さいころの目は平らに並びます。どちらも 正規分布 とは似ても似つきません。ところが、そこから標本をとって平均をとると、もとの形が何であれ標本平均の分布は正規分布に近づいていきます。
母平均 ・母分散 の母集団から大きさ の無作為標本をとるとき、 が十分大きければ標本平均 は近似的に正規分布に従う。これが中心極限定理です。
平均と分散そのものは 標本平均の期待値・分散 で分かっていたことです。中心極限定理が新たに与えているのは分布の形で、そこが正規分布だと分かって初めて確率の計算ができます。

母集団そのもの(左端)は 0 のあたりがいちばん高く、曲線とはまるで合っていません。 でもまだ左に寄っています。 になるとかなり近づきますが、山の頂上がまだ曲線の頂点より左にあり、右の裾も残っています。それが では見分けがつかなくなります。同時に山の幅も狭くなっています。こちらは が小さくなる効果です。
大数の法則 と対にして覚えると混ざりません。大数の法則は が に近づくという行き先の話、中心極限定理は が のまわりでどう散らばるかという散らばり方の話です。前者だけでは確率を計算できません。
必要な大きさは母集団の歪みや尾の重さで変わり、 は保証ではありません。強い歪みや重い尾ではさらに大きな標本が必要です。母集団が正規分布なら、どのnでも標本平均は厳密に正規分布に従います。
中心極限定理は漸近的な結果です。有限標本で正規近似を使う前に、母集団の歪み・尾・標本の独立性を確認し、近似が妥当か判断します。
ある工場の製品は1個あたり平均 500 g、標準偏差 60 g です。1個ずつの重さの分布は左右対称とは限らず、たまに重いものが混じるため右へ裾を引いているとします。ここから100個を無作為に選び、その平均の重さを考えます。
1個ずつの分布は正規分布ではありませんが、100個の平均なら中心極限定理が使えます。期待値は 500 g のまま、標準偏差は g です。つまり はおよそ に従います。
100個の平均が 512 g 以上になる確率を求めます。標準化して 、標準正規分布表から 。およそ2%です。
1個だけの重さが512 g以上である確率は、母集団の分布形が不明なので、平均と標準偏差だけからは計算できません。中心極限定理を適用できるのは100個の標本平均のほうです。
ここで割り算する分母を ではなく 100 としてしまうと、標準偏差が 0.6 g となって確率は事実上 0 になります。平均のぶれが縮む速さは、標本の大きさそのものではなくその平方根で決まります。この一点を落とすと、答えは桁ごと変わってしまいます。
母平均 50、母標準偏差 20 の母集団から大きさ 64 の無作為標本をとります。標本平均の標準偏差はいくつですか。
有限分散をもち、歪みが極端でない右裾分布から独立に大きさ100の標本を繰り返し取り、正規近似を用います。標本平均の分布はどうなりますか。
母標準偏差18の母集団から大きさ36の独立な無作為標本を取り、標本平均に正規近似を用います。標本平均が母平均より5以上大きい確率はどれですか。 とします。
標本の大きさが 5 しかないとき、標本平均の分布を正規分布とみなしてよいのはどの場合ですか。