1回300円のくじがあります。1等1000円が10%、2等500円が20%、残る70%ははずれ。引くべきでしょうか。判断の手がかりになるのは、1回あたり平均していくら戻ってくるかです。
確率変数のとる値を、その確率で重みづけして足し上げたものを期待値といい、E(X) と書きます。データの平均値が「全員を足して人数で割る」だったのに対し、こちらは起こる確からしさのほうを重みにした平均です。
E(X)=i∑xiP(X=xi) xi:確率変数がとりうる値、P(X=xi):その値をとる確率 くじに当てはめると 1000×0.1+500×0.2+0×0.7=200 円。300円払って平均200円が戻る勘定なので、回数を重ねるほど手元は減っていきます。31000+500+0=500 円にならないのは、金額を同じ重みで平均せず、起こりやすさを表す確率で重み付けするからです。
散らばりも同じ発想で測ります。期待値からの離れぐあいを2乗し、それを確率で重みづけして足したものが分散 V(X)、その正の平方根が標準偏差です。2乗するのは、偏差 をそのまま足すと打ち消し合って 0 になってしまうからで、ここはデータの 分散 とまったく同じ理屈です。
V(X)=i∑(xi−E(X))2P(X=xi) V(X):確率変数 X の分散、E(X):X の期待値 ただし手を動かすときは、次の変形のほうが速いことがほとんどです。日本語に直せば「2乗の期待値から、期待値の2乗を引く」。
V(X)=E(X2)−{E(X)}2 この式は移項して E(X2)={E(X)}2+V(X) の形でもよく使われます。平均 μ・分散 σ2 と書けば E(X2)=μ2+σ2 で、(μ+σ)2 としてしまう誤りが定番です。
ここまでは離散型の話でしたが、連続型確率変数 でも考え方は変わりません。値ごとに確率を掛けて足す代わりに、密度を重みにして積分します。
E(X)=∫−∞∞xf(x)dx,E(g(X))=∫−∞∞g(x)f(x)dx f(x):確率密度関数、g(X):確率変数を変換したもの(料金や得点など、X から決まる量) 和が積分に置き換わっただけで、V(X)=E(X2)−{E(X)}2 はそのまま使えます。使用時間から料金が決まるような場合は、料金そのものの分布を求めずとも g(x)f(x) を積分すれば平均の料金が出ます。
コイン2回の表の回数で3つとも計算する
ゆがみのないコインを2回投げ、表が出た回数を X とします。とりうる値は 0, 1, 2 で、確率は順に 41、21、41 です(表裏と裏表の2通りがあるので、1回だけ表になる確率が倍になります)。
期待値は 0×0.25+1×0.5+2×0.25=1 回。2回投げて平均1回表が出る、という素直な値です。
分散を定義どおりに計算すると (0−1)2×0.25+(1−1)2×0.5+(2−1)2×0.25=0.5。変形した式でも確かめておきます。E(X2)=0×0.25+1×0.5+4×0.25=1.5 なので 1.5−12=0.5 で一致しました。標準偏差はその平方根で 0.5≈0.71 回です。
期待値が同じでも中身は同じでない
2つのゲームがあります。ゲームAは何もせず確実に100円もらえる。ゲームBはコインを投げ、表なら200円・裏なら0円。どちらの期待値も 200×0.5+0×0.5=100 円で並びます。
違いは分散に出ます。ゲームAは値が動かないので V=0。ゲームBは (0−100)2×0.5+(200−100)2×0.5=10000 で、標準偏差は100円です。期待値は同じでも、結果が毎回100円ぶれるか、まったくぶれないかという差があります。
期待値だけを見て2つを同じものと扱うと、この差は消えてしまいます。保険や投資では結果の散らばり方も損失の可能性を変えるため、期待値とともに分散を確かめます。