相関係数 は −1 と +1 の間にしか値を取れません。ここが厄介なところで、これまでのように「推定値の左右へ同じだけ足し引きする」やり方をそのまま当てると、 のようなときに上端が 1 を超えてしまいます。動ける範囲が決まっている量には、対称な区間という形自体が合っていないのです。
そこで相関係数の区間推定では、いったん を上下の制限のない量に置き換え、そちらで区間を作ってから相関係数の世界へ戻します。この置き換えをフィッシャーの z 変換といいます。−1 から 1 までの値を から まで広げる変換で、次の式で与えられます。
ここでの は自然対数です。2変量正規母集団から 組を無作為に抽出し、組どうしを独立に扱えるとき、変換後の は がある程度大きければ標準偏差 の正規分布でよく近似できます。変換によって、母相関係数 の大きさにかかわらず、ばらつきを だけで決められます。手順は3段になります。
戻したあとの区間は、 を中心に左右対称にはなりません。z の世界では対称だった区間が、戻す際に ±1 に近い側ほど強く圧縮されるからです。 が正なら上側の幅が下側より狭くなります。これは という制約を守った結果で、計算を誤ったわけではありません。
この手順は、無作為に得た観測の組どうしが独立で、組をなす2変数が 2変量正規分布 に従うことを前提にしています。独立であるべきなのは人どうし・対象どうしの観測であり、同じ組の中の2変数ではありません。同じ組の2変数には、推定対象である相関があって構いません。また、区間が 0 を含むかどうかで「母集団に相関があるとはいえない」という判断はできますが、ここで測っているのは直線的な関係の強さだけです。区間が 0 から離れていても、因果関係 を述べたことにはなりません。
2変量正規母集団から無作為に抽出した、互いに独立な 28 組のデータから、標本相関係数 0.6 を得ました。母相関係数の 95% 信頼区間を求めます。
まず z 変換します。。次に のばらつきは なので、半幅は 。z の区間は 0.301 から 1.085 までとなります。
最後に両端を相関係数へ戻します。下端は 、上端は 。母相関係数の 95% 信頼区間は 0.29 から 0.80 です。
できあがった区間を眺めると、推定値 0.6 から下端までが 0.31、上端までが 0.20 で、下側のほうが長い。上端は 1 という壁に近いので、そちら側が押し縮められています。もし が負なら、鏡のように下側が縮みます。
そしてこの区間は 0 を含みません。母集団で無相関()とは考えにくい、と言えます。ただし下端は 0.29 で、散布図 にすればうっすらと右上がりに見える程度の値です。0 を含まないという一点だけを取り出して「はっきりした相関がある」と読み替えては、区間を求めた意味がありません。両端の値がそれぞれどんな関係の強さを指すのかまで見て、初めて結論になります。
相関係数の区間推定で、標本相関係数をいったん別の量に変換してから区間を作るのは、なぜですか。
標本相関係数が 0.5 のとき、フィッシャーの z 変換で得られる値はいくつですか。 とします。
標本相関係数 0.6 から作った母相関係数の 95% 信頼区間について、正しいものはどれですか。