ひよこ統計

正規母集団の母平均の差・母分散の比の区間推定

統計検定2級

ここまで相手は1つの母集団でした。しかし現場で知りたい点は「AとBで違うのか」という比較です。正規分布に従う母集団が2つあるとき、母平均の差 μ1−μ2 \mu_1 - \mu_2 と母分散の比 σ12σ22 \frac{\sigma_1^2}{\sigma_2^2} にも信頼区間を作れます。

一方は差、他方は比という組み合わせは、量の性質から決まっています。平均は差が「どれだけ大きいか」として読めて基準は 0、分散は2乗の量なので比のほうが「何倍ばらついているか」として読めて基準は 1 になります。しかも母分散で割った不偏分散どうしの比は、カイ二乗分布どうしの比として F分布 に従います(2つの母分散が等しければ、不偏分散の比そのものが従います)。

まず、2群が互いに独立で、各群が正規母集団から無作為に得られた場合を考えます。母平均の差について、研究計画や過去の知見から2つの母分散が等しいとあらかじめ仮定できるなら、2つの不偏分散を1つにまとめたプールした分散を使えます。この等分散の仮定は、同じデータで先に分散比を検定し、棄却されなかったことだけを根拠に選ぶものではありません。

sp2=(n1−1)s12+(n2−1)s22n1+n2−2s_p^2 = \frac{(n_1-1)s_1^2 + (n_2-1)s_2^2}{n_1 + n_2 - 2}
sp2 s_p^2 :プールした分散、s12 s_1^2 ・s22 s_2^2 :各標本の不偏分散、n1 n_1 ・n2 n_2 :各標本の大きさ

自由度で重みづけた平均なので、標本の大きさが違えば、sp2 s_p^2 は大きいほうの標本の不偏分散に近い値になります。これを共通のばらつきとして使い、係数に t分布 の上側確率点を取ると、差の信頼区間はこうなります。

(xˉ1−xˉ2)±tα/2(n1+n2−2)⋅sp1n1+1n2\left(\bar{x}_1 - \bar{x}_2\right) \pm t_{\alpha/2}(n_1 + n_2 - 2) \cdot s_p\sqrt{\frac{1}{n_1} + \frac{1}{n_2}}
xˉ1 \bar{x}_1 ・xˉ2 \bar{x}_2 :各標本平均、sp s_p :プールした分散の平方根、n1+n2−2 n_1 + n_2 - 2 :t分布の自由度

自由度が n1+n2−2 n_1 + n_2 - 2 なのは、2つの標本でそれぞれ標本平均を使ったぶん 1 ずつ減るからです。根号の中が 1n1+1n2 \frac{1}{n_1} + \frac{1}{n_2} と足し算になるのは、独立な2つの標本平均の差の分散が和になるためです(和と差の分散)。

等分散を仮定しない場合は、各群の不偏分散を別々に使う Welch の区間を用います。標準誤差は s12/n1+s22/n2 \sqrt{s_1^2/n_1+s_2^2/n_2} とし、自由度は Welch–Satterthwaite の式で近似します。

(xˉ1−xˉ2)±tα/2(νW)s12n1+s22n2,νW=(s12/n1+s22/n2)2(s12/n1)2/(n1−1)+(s22/n2)2/(n2−1)(\bar{x}_1-\bar{x}_2) \pm t_{\alpha/2}(\nu_W)\sqrt{\frac{s_1^2}{n_1}+\frac{s_2^2}{n_2}},\qquad \nu_W=\frac{(s_1^2/n_1+s_2^2/n_2)^2}{(s_1^2/n_1)^2/(n_1-1)+(s_2^2/n_2)^2/(n_2-1)}
νW \nu_W :Welch–Satterthwaite の近似自由度

母分散の比の区間は、係数を足し引きする形をとりません。土台は s12/σ12s22/σ22 \frac{s_1^2/\sigma_1^2}{s_2^2/\sigma_2^2} が F(ν1,ν2) F(\nu_1, \nu_2) に従うことで、この量を上下の確率点で挟んで σ12σ22 \frac{\sigma_1^2}{\sigma_2^2} について解きます。点推定値 s12s22 \frac{s_1^2}{s_2^2} を確率点で割ったものが下端、掛けたものが上端です。

s12s22⋅1Fα/2(ν1, ν2) ≤ σ12σ22 ≤ s12s22⋅Fα/2(ν2, ν1)\frac{s_1^2}{s_2^2} \cdot \frac{1}{F_{\alpha/2}(\nu_1,\ \nu_2)} \ \leq \ \frac{\sigma_1^2}{\sigma_2^2} \ \leq \ \frac{s_1^2}{s_2^2} \cdot F_{\alpha/2}(\nu_2,\ \nu_1)
ν1 \nu_1 ・ν2 \nu_2 :n1−1 n_1 - 1 ・n2−1 n_2 - 1 (各標本の自由度)、Fα/2(ν1,ν2) F_{\alpha/2}(\nu_1, \nu_2) :自由度 (ν1,ν2) (\nu_1, \nu_2) の F分布の上側 α2 \frac{\alpha}{2} 点

この順序の入れ替わりは F F 分布の性質から来ています。F分布は自由度の順序を入れ替えられず、下側の確率点を F1−α/2(ν1,ν2)=1Fα/2(ν2,ν1) F_{1-\alpha/2}(\nu_1, \nu_2) = \frac{1}{F_{\alpha/2}(\nu_2, \nu_1)} で読み替えるためです。区間が 1 の側にどう位置するかで、2つのばらつきが違うと言えるかどうかが決まります。

母分散の比の区間は「ばらつきが何倍か」を推定するためのもので、平均差の手法を選ぶ事前試験ではありません。区間が 1 を含んでも等分散が証明されたわけではなく、含まなくても平均差そのものが推定できなくなるわけではありません。等分散を支える事前の根拠がなければ、各群のばらつきを別々に使う Welch の区間を選べます。

2種類の肥料の収穫から、母分散の比と母平均の差を区間推定する

肥料A・Bをそれぞれ与えた母集団から、互いに独立な標本としてミニトマトを 5 個ずつ無作為に選び、実の重さ(g)を測りました。Aは標本平均 20.0・不偏分散 5.0、Bは標本平均 16.0・不偏分散 3.0。重さは各群で正規分布に従うとします。

まず母分散の比を、平均差の手法選択とは別の推定対象として見ます。比の点推定は 5.03.0=1.67 \frac{5.0}{3.0} = 1.67 、自由度はどちらも 4 で F0.025(4,4)=9.60 F_{0.025}(4, 4) = 9.60 。区間は 1.679.60=0.17 \frac{1.67}{9.60} = 0.17 から 1.67×9.60=16.0 1.67 \times 9.60 = 16.0 までで、1 をゆったりと含みます。Aの母分散がBの 16 倍という可能性も、6分の1という可能性も否定できない——5 個ずつという規模では、ばらつきの違いについてほとんど何も言えないということです。1 を含むことは、等分散の証明にはなりません。

次に母平均の差を求めます。ここでは同じ測定工程についての事前知見から等分散を仮定していたとして、プールした区間を使います。プールした分散は 4×5.0+4×3.05+5−2=4.0 \frac{4 \times 5.0 + 4 \times 3.0}{5 + 5 - 2} = 4.0 で、sp=2.0 s_p = 2.0 。自由度 5+5−2=8 5 + 5 - 2 = 8 の上側 2.5% 点は t0.025(8)=2.306 t_{0.025}(8) = 2.306 、根号の中は 15+15=0.4 \frac{1}{5} + \frac{1}{5} = 0.4 なので、半幅は 2.306×2.0×0.4=2.92 2.306 \times 2.0 \times \sqrt{0.4} = 2.92 g となります。事前に等分散を仮定しないなら、上の Welch の区間を使います。

差の点推定が 20.0−16.0=4.0 20.0 - 16.0 = 4.0 g ですから、この仮定のもとで母平均の差の 95% 信頼区間は 1.08 g から 6.92 g。0 を含んでいないので、母平均はAのほうが大きいと考えられます。もっとも幅は 1 g 台から 7 g 近くまであり、どちらが重いかは言えても、どれだけ重いかは絞り込めていません。結論は無作為化・独立性・正規性・等分散という前提に依存するため、データの集め方と事前に選んだ方法を併せて示します。

入門問題

全 4 問
問 1

2つの正規母集団から標本を取り、大きさ 4・不偏分散 9.0 と、大きさ 10・不偏分散 3.0 を得ました。等分散とみなすとき、プールした分散はいくつですか。

問 2

大きさ 6 と大きさ 8 の標本から、等分散を仮定して母平均の差の信頼区間を作ります。t分布の自由度はいくつですか。

問 3

母分散の比 σ12σ22 \frac{\sigma_1^2}{\sigma_2^2} の 95% 信頼区間が 1 を含んでいました。ここからいえることはどれですか。

問 4

2つの標本(どちらも大きさ 10)の不偏分散の比が s12s22=2.0 \frac{s_1^2}{s_2^2} = 2.0 でした。F0.025(9,9)=4.03 F_{0.025}(9, 9) = 4.03 として、母分散の比の 95% 信頼区間の下端はいくつですか。