ひよこ統計

t分布

統計検定2級

標本平均を 標準化(z得点) するには、母標準偏差 σ \sigma で割る必要がありました。ところが実際の調査で σ \sigma が分かっていることは、まずありません。母平均 μ \mu すら知らないから調べているのに、母標準偏差だけ知っているというのは不自然な話です。

そこで σ \sigma の代わりに、標本から計算した不偏分散 S2 S^2 (偏差の2乗和を n−1 n-1 で割った値。分散 で n n で割ったのとは割る数が違います)の平方根を使います。ただし S S は標本ごとに変わる量なので、分母までが標本のたびに揺れることになります。分子だけが揺れていた Z Z とは違い、この統計量はもう 標準正規分布 には従いません。

T=Xˉ−μS2/n ∼ t(n−1)T = \frac{\bar{X} - \mu}{\sqrt{S^2 / n}} \ \sim \ t(n-1)
S2 S^2 :不偏分散(標本から計算する)、n−1 n - 1 :自由度。標本の大きさより1だけ小さい

t分布は、いま作った T T が従う分布です。自由度は 標本の大きさ より1つ小さい n−1 n-1 で、正規母集団を仮定したうえで、母分散を知らないまま母平均を扱うための道具になります。

左は自由度3のt分布・自由度10のt分布・標準正規分布の確率密度曲線を重ねた図で、3本はよく似た釣鐘型だが自由度3の山がやや低い。右は同じ3本の右の裾(2.0から4.5まで)を拡大した図で、自由度3、自由度10、標準正規分布の順に上から並んでいる
全体では似ているが、裾を拡大すると自由度の小さいt分布ほど上にある

形は標準正規分布とよく似た、0 を中心とする左右対称の釣鐘型です。違いは山の高さと裾で、t分布のほうが山がわずかに低く、そのぶん裾が厚くなっています。分母が揺れるぶん、極端な値が出やすいということです。ただし違いが目で見えるのは 2 より外側からで、右の図のようにそこを拡大して、ようやく自由度3、自由度10、標準正規分布の順に上から並ぶのが分かります。

自由度が大きくなると S S は σ \sigma に近づいて分母の揺れが収まり、t分布は標準正規分布に近づきます。歪度・尖度 で見ると、左右対称なので歪度は 0 のまま、尖度は 6ν−4 \frac{6}{\nu - 4} (ν>4 \nu > 4 )で自由度が大きいほど 0 に近づきます。

「標本が小さいときはt分布、大きいときは標準正規分布」と覚えると取り違えます。分かれ目は標本の大きさではなく σ \sigma を知っているかどうかで、母分散が未知なら標本がいくら大きくてもt分布です。ただし自由度が大きければ両者はほとんど重なるため、大標本では標準正規分布で代用しても実害が出ない、というだけのことです。

母平均 μ \mu ・母分散 σ2 \sigma^2 の正規母集団から、大きさ 9 の無作為標本をとります。標本平均を Xˉ \bar{X} 、不偏分散を S2 S^2 として、Xˉ \bar{X} が μ+0.62S \mu + 0.62S 以上になる確率を求めます。σ \sigma は分かっていません。

σ \sigma がないので S S で標準化します。n=9 n = 9 より分母は S2/9=S/3 \sqrt{S^2/9} = S/3 となり、自由度は 9−1=8 9 - 1 = 8 です。

求めたい不等式 Xˉ≥μ+0.62S \bar{X} \ge \mu + 0.62S の両辺から μ \mu を引き、S/3 S/3 で割ると、右辺は 0.62SS/3=0.62×3=1.86 \frac{0.62S}{S/3} = 0.62 \times 3 = 1.86 。ここで S S が約分され、値の分からない量が式から消えます。

P(Xˉ≥μ+0.62S)=P ⁣(T≥1.86)P(\bar{X} \ge \mu + 0.62S) = P\!\left( T \ge 1.86 \right)

1.86 は自由度8のt分布の上側5%点です。したがって求める確率は 0.05。母分散も母平均も分からないままなのに、確率だけが決まりました。基準を 0.62S 0.62S という S S の倍数で置いたおかげで、未知の量が消えたためです。

もし同じ 1.86 を標準正規分布の表で引くと、上側確率は 0.0314 になります。t分布の裾が厚いぶん、正規分布で代用すると確率を小さく見積もることになり、自由度が小さいほどその差は開きます。

入門問題

全 3 問
問 1

正規母集団の母平均を推測します。母分散が分かっていないため、標本から計算した不偏分散を使って標本平均を標準化しました。この統計量が従う分布はどれですか。

問 2

t分布の自由度を 5、30、100 と大きくしていくと、分布の形はどれに近づきますか。

問 3

上側5%点を比べます。標準正規分布では 1.645、自由度8のt分布では 1.860 でした。t分布のほうが大きくなる理由として正しいものはどれですか。