標本平均を 標準化(z得点) するには、母標準偏差 で割る必要がありました。ところが実際の調査で が分かっていることは、まずありません。母平均 すら知らないから調べているのに、母標準偏差だけ知っているというのは不自然な話です。
そこで の代わりに、標本から計算した不偏分散 (偏差の2乗和を で割った値。分散 で で割ったのとは割る数が違います)の平方根を使います。ただし は標本ごとに変わる量なので、分母までが標本のたびに揺れることになります。分子だけが揺れていた とは違い、この統計量はもう 標準正規分布 には従いません。
t分布は、いま作った が従う分布です。自由度は 標本の大きさ より1つ小さい で、正規母集団を仮定したうえで、母分散を知らないまま母平均を扱うための道具になります。

形は標準正規分布とよく似た、0 を中心とする左右対称の釣鐘型です。違いは山の高さと裾で、t分布のほうが山がわずかに低く、そのぶん裾が厚くなっています。分母が揺れるぶん、極端な値が出やすいということです。ただし違いが目で見えるのは 2 より外側からで、右の図のようにそこを拡大して、ようやく自由度3、自由度10、標準正規分布の順に上から並ぶのが分かります。
自由度が大きくなると は に近づいて分母の揺れが収まり、t分布は標準正規分布に近づきます。歪度・尖度 で見ると、左右対称なので歪度は 0 のまま、尖度は ()で自由度が大きいほど 0 に近づきます。
「標本が小さいときはt分布、大きいときは標準正規分布」と覚えると取り違えます。分かれ目は標本の大きさではなく を知っているかどうかで、母分散が未知なら標本がいくら大きくてもt分布です。ただし自由度が大きければ両者はほとんど重なるため、大標本では標準正規分布で代用しても実害が出ない、というだけのことです。
母平均 ・母分散 の正規母集団から、大きさ 9 の無作為標本をとります。標本平均を 、不偏分散を として、 が 以上になる確率を求めます。 は分かっていません。
がないので で標準化します。 より分母は となり、自由度は です。
求めたい不等式 の両辺から を引き、 で割ると、右辺は 。ここで が約分され、値の分からない量が式から消えます。
1.86 は自由度8のt分布の上側5%点です。したがって求める確率は 0.05。母分散も母平均も分からないままなのに、確率だけが決まりました。基準を という の倍数で置いたおかげで、未知の量が消えたためです。
もし同じ 1.86 を標準正規分布の表で引くと、上側確率は 0.0314 になります。t分布の裾が厚いぶん、正規分布で代用すると確率を小さく見積もることになり、自由度が小さいほどその差は開きます。
正規母集団の母平均を推測します。母分散が分かっていないため、標本から計算した不偏分散を使って標本平均を標準化しました。この統計量が従う分布はどれですか。
t分布の自由度を 5、30、100 と大きくしていくと、分布の形はどれに近づきますか。
上側5%点を比べます。標準正規分布では 1.645、自由度8のt分布では 1.860 でした。t分布のほうが大きくなる理由として正しいものはどれですか。