ひよこ統計

二項分布の正規近似

統計検定3級統計検定2級

10回に1回の割合でカウントされる歩数計で1,000歩あるいたとき、110回以上カウントされる確率を知りたいとします。カウント数は B(1000,0.1) B(1000, 0.1) に従うので、二項分布 の式で k=110 k = 110 から 1000 1000 までを足せば答えは出ます。ただし891項ぶん、しかも (1000k) \binom{1000}{k} を含む計算です。とても手では終わりません。

そこで形を見ます。二項分布は n n が大きくなるほど左右対称のなめらかな山に近づき、平均 np np ・分散 np(1−p) np(1-p) の 正規分布 とほとんど重なります。これを利用して確率を求めるのが二項分布の正規近似です。

成功確率0.3の二項分布を n=5、n=20、n=100 の3つ並べた図。それぞれ棒グラフの上に、平均 np・分散 np(1−p) の正規分布の密度曲線が赤い線で重ねてある。n=5 では棒が数本しかなく曲線とのずれが大きいが、n=20 でかなり近づき、n=100 では棒の先端がほぼ曲線に沿っている。
成功確率 0.3 の二項分布と、それに対応する正規分布の曲線

n=5 n = 5 では棒が数本しかなく、階段状の輪郭が曲線からはみ出しています。ところが n=100 n = 100 になると棒の先端が曲線をなぞります。近似の精度は n n だけでなく p p にも左右されます。p p が 0 や 1 に近いと山が端に押しつけられて左右対称になれないためで、目安として np np と n(1−p) n(1-p) がどちらも5以上あることを確かめます。

使うときは、二項分布を正規分布に置き換えたうえで標準化します。

Z=X−npnp(1−p)Z = \frac{X - np}{\sqrt{np(1-p)}}
np np :二項分布の期待値、np(1−p) np(1-p) :二項分布の分散。分母はその平方根、すなわち標準偏差

分母に置くのは分散 np(1−p) np(1-p) そのものではなく、その平方根です。ここで平方根を忘れる誤り、そして分散を np np と書いてしまう誤りの2つが定番で、どちらも標準化の分母をずらします。

冒頭の歩数計を計算します。カウント数 X∼B(1000,0.1) X \sim B(1000, 0.1) なので、期待値は 1000×0.1=100 1000 \times 0.1 = 100 、分散は 1000×0.1×0.9=90 1000 \times 0.1 \times 0.9 = 90 。np=100 np = 100 ・n(1−p)=900 n(1-p) = 900 でどちらも5を大きく超えており、近似して差し支えありません。

X X を N(100,90) N(100, 90) で置き換えて標準化すると Z=110−10090=109.487=1.05 Z = \frac{110 - 100}{\sqrt{90}} = \frac{10}{9.487} = 1.05 。標準正規分布表(読み方は 標準正規分布表の利用)から P(Z≥1.05)=0.1469 P(Z \ge 1.05) = 0.1469 なので、およそ15%です。891項の足し算が、標準化1回と表引き1回で済みました。

ここで 90 \sqrt{90} を90のままにすると Z=0.11 Z = 0.11 となり、確率は46%と大きく外れます。分散と標準偏差の取り違えは、答えが3倍違うほどの影響を持ちます。

ただし置き換えたぶんのずれは残ります。この例の厳密な値は 0.1583 で、いま求めた 0.1469 とは1ポイントほど違います。とびとびの棒をなめらかな曲線で代用したことによる系統的なずれで、これを詰める手当てが 連続修正 です(別項で扱います)。近似は速さと引き換えに精度を少し手放している、と押さえておきます。

同じ考え方は割合にも使えます。出口調査で100人中54人がA候補に投票したとしましょう。回数を n n で割れば割合になるので、標本比率 p^=0.54 \hat{p} = 0.54 の散らばりは p(1−p)n \sqrt{\frac{p(1-p)}{n}} で決まります。本来ここに入るのは真の得票率 p p ですが、それが分からないから調べているので、手元の p^ \hat{p} で代用して 0.54×0.46100=0.0498 \sqrt{\frac{0.54 \times 0.46}{100}} = 0.0498 と見積もります。

標本比率が真の得票率から 0.1 以内に収まる確率は、0.10.0498=2.01 \frac{0.1}{0.0498} = 2.01 より P(∣Z∣≤2.01)=1−2×0.0222=0.956 P(|Z| \le 2.01) = 1 - 2 \times 0.0222 = 0.956 、およそ96%です。動くのは標本比率のほうで、真の得票率は動かない1つの値だという点を取り違えないようにします。

入門問題

全 4 問
問 1

X∼B(400,0.5) X \sim B(400, 0.5) を正規分布で近似して P(X≥220) P(X \ge 220) を求めます。標準化した Z Z の値はどれですか。

問 2

発芽率0.5の種を400粒まくとき、発芽数が220粒以上となる確率を正規近似で求める式はどれですか。

問 3

n=100 n = 100 ・標本比率 p^=0.5 \hat{p} = 0.5 のとき、p^(1−p^)n \sqrt{\frac{\hat{p}(1-\hat{p})}{n}} の値はどれですか。

問 4

二項分布を正規分布で近似してよいかどうかの目安として、最も適切なものはどれですか。