20人に聞いたら平均は7.2時間でした。この 7.2 は、知りたかった値そのものでしょうか。市の中学生全員の平均睡眠時間を知るために20人を選んだのなら、答えは違います。7.2 はその20人から出た値であって、全員の平均はどこか別のところにあります。
母集団 の分布を特徴づける定数を母数といいます。代表的なものが母平均 と母分散 で、割合を扱うときの母比率 も母数です。母集団がひとつ決まれば、その値もひとつに決まります。
記号にも書き分けの約束があります。母数はギリシャ文字(・)、標本 から計算した値はラテン文字(・)で書きます。式の中でどちらの世界の話をしているのかは、記号を見れば分かる仕組みになっています。
日常の日本語では「母数が少ないので」のように、母集団の大きさや調査した人数を指して母数と言うことがあります。統計学では違います。母数は個数ではなく、母平均や母分散といった分布を決める値のことです。人数を指したいときは母集団の大きさ、あるいは 標本の大きさ と呼び分けます。
母数は定数であって、確率変数ではありません。調査を何度やり直しても母平均 は同じ値のまま動かず、動くのは標本のほうです。この区別が、標本ごとに変わる推定値から、動かない母数を推測する考え方の土台になります。
そして母数は、たいていの場合わかりません。わかっているなら調査をする必要がないからです。わからない や を標本から推し量る、という向きの作業が推測統計の全体像で、そのために標本から作った値がどう振る舞うかを調べます。
部員5人だけの小さな陸上部を母集団として、身長を測りました。人数が少ないので、母数を実際に計算できます。
| Aさん | Bさん | Cさん | Dさん | Eさん |
|---|---|---|---|---|
| 160 | 164 | 166 | 168 | 172 |
母平均は cm。母分散は偏差 を2乗して平均し、、母標準偏差はその平方根で 4 cm です。この3つの値が、この母集団の母数です。
次に、ここから2人を選んで身長を測る場面を考えます。AさんとDさんなら平均 164 cm、CさんとEさんなら 169 cm、BさんとCさんなら 165 cm。選ぶ相手が変わるたびに値が変わります。
この 164・169・165 は標本平均であって、母平均ではありません。母平均は 166 のまま動いていないのに、手元の値は 164 にも 169 にもなる。母数と標本の値を同じ記号で書かないのは、この違いを毎回意識するためです。
次のうち、母数にあたるものはどれですか。
同じ母集団に対して、同じ方法の調査を何度も繰り返します。調査のたびに値が変わるものはどれですか。
母集団が 4, 6, 7, 11 の4つの数だけからなるとき、母分散はいくつですか。