ひよこ統計

推定量と推定値

統計検定2級

電池を5個測って標本平均 20.0 時間を得たとします。別の5個を測れば 19.6 時間になるかもしれません。計算の仕方は1つなのに、出てくる数値は標本ごとに変わります。この「1つの式」と「そのつどの数値」は、名前を分けて扱います。

母数 を推定するために標本から計算する式そのものを推定量、その式に実際のデータを入れて得られた数値を推定値といいます。標本平均 Xˉ \bar{X} は推定量、20.0 時間は推定値です。

推定量は標本によって値が変わるので、それ自体がひとつの確率変数です。したがって期待値も分散も持ち、分布を考えることができます。いっぽう推定値はすでに出た1つの数値で、ばらつきようがありません。

この区別が要るのは、推定の良し悪しを語れるのが推定量のほうだからです。平均的に母数を当てにいくか(不偏性)、標本を大きくすると母数に近づくか(一致性)、そしてどれだけばらつくか——どれも推定量の性質であって、手元に出た1つの数値について言えることではありません。同じ母数を狙う推定量が複数あるとき、分散の小さいほうが精度の高い推定量です。

記号では、推定量を大文字(Xˉ \bar{X} ・S2 S^2 )、推定値を小文字(xˉ \bar{x} ・s2 s^2 )で書き分けます。母数をギリシャ文字にするのと合わせると、μ \mu (動かない母数)・Xˉ \bar{X} (動く推定量)・xˉ \bar{x} (出てしまった推定値)の3つが記号だけで見分けられます。

2枚のコインA・Bの重さ a a ・b b を、両側に皿のある天秤で量ります。量り方は2通りあります。AとBを同じ皿に載せて合計を量ると X=a+b+ε1 X = a + b + \varepsilon_1 、Aを左・Bを右に載せて差を量ると Y=a−b+ε2 Y = a - b + \varepsilon_2 。誤差 ε1 \varepsilon_1 ・ε2 \varepsilon_2 は平均 0・分散 σ2 \sigma^2 で互いに独立とします。

この2つの測定値から、Bの重さの推定量を作れます。

b^=X−Y2=b+ε1−ε22,V(b^)=σ2+σ24=σ22\hat{b} = \frac{X - Y}{2} = b + \frac{\varepsilon_1 - \varepsilon_2}{2}, \qquad V(\hat{b}) = \frac{\sigma^2 + \sigma^2}{4} = \frac{\sigma^2}{2}
b^ \hat{b} :Bの重さの推定量、X X :AとBを合わせて量った値、Y Y :AとBの差として量った値、ε1 \varepsilon_1 ・ε2 \varepsilon_2 :各測定の誤差(平均 0・分散 σ2 \sigma^2 ・独立)

分散が σ24 \frac{\sigma^2}{4} を2つ足した形になるのは、12 \frac{1}{2} 倍すると分散は 14 \frac{1}{4} 倍になり、独立な誤差どうしなら差の分散が和になるからです(和と差の分散)。

Bだけを皿に載せて1回量れば、その推定量の分散は σ2 \sigma^2 です。ところが上のやり方なら、同じ2回の測定でAの推定量 X+Y2 \frac{X + Y}{2} も同時に得られ、そちらの分散も σ22 \frac{\sigma^2}{2} になります。2回でAとBを1つずつ量るのと、手間は同じ。それでいて分散は半分です。量り方という設計だけで精度が変わる、ということです。

実際に量ってみます。合計が 9.4 g、差が 1.4 g だったとすると、Bの推定値は 9.4−1.42=4.0 \frac{9.4 - 1.4}{2} = 4.0 g、Aは 9.4+1.42=5.4 \frac{9.4 + 1.4}{2} = 5.4 g です。ここで比べていた σ22 \frac{\sigma^2}{2} は推定量についての値で、出てきた 4.0 g・5.4 g のほうには分散も期待値もありません。どの量り方を選ぶかを判断できるのは、数値が出る前だからこそです。

入門問題

全 3 問
問 1

推定量と推定値の説明として正しいものはどれですか。

問 2

同じ母集団から、大きさの等しい標本を取り直しました。値が変わるものはどれですか。

問 3

平均 0・分散 σ2 \sigma^2 で互いに独立な誤差 ε1 \varepsilon_1 ・ε2 \varepsilon_2 があります。ε1+ε22 \frac{\varepsilon_1 + \varepsilon_2}{2} の分散はいくつですか。