3種類の接着剤A・B・Cで、接合部がはがれるまでの荷重に差があるかを確かめたいとします。手持ちの道具が2群を比べる 母平均の差の検定 だけなら、A対B・A対C・B対Cと3回に分けて検定することになります。ところがこの総当たりでは、1回あたりの有意水準を5%に取っても、3回のどれか1つで誤って帰無仮説を棄却してしまう確率は5%を大きく超えます。3回が互いに独立だと粗く見積もれば ですが、同じ標本を使い回す検定どうしは独立ではないので、これは目安であって正確な値ではありません。比べる回数は水準の数 に対して 回と急に増えるため、第1種の過誤と第2種の過誤 のうち第1種の過誤だけが積み上がっていきます。この積み上がりを避け、3つ以上の群の母平均を1回の検定でまとめて調べる方法が分散分析です。
平均の差を知りたいのに分散を分析する、という名前のねじれが引っかかるかもしれません。ここでは2種類の散らばりの大小関係を見ています。群と群の間の散らばりを、同じ群の中にある散らばりと比べ、前者が不釣り合いに大きければ、すべての群の母平均が等しいという帰無仮説を棄却します。一元配置実験 で分けた2つの平方和は、この2種類の散らばりを数値にしたものです。散らばりどうしの比を検定統計量へ組み立てる手順は F比 で扱います。
仮説の置き方も2群のときとは形が変わります。帰無仮説は 、つまりすべての水準で母平均が等しいという1つの主張にまとめ、対立仮説はその否定として、少なくとも1組の水準間で母平均が異なる、と置きます(帰無仮説と対立仮説)。この対立仮説を、すべての水準で母平均が異なる、と読み替えてはいけません。AとBだけがずれていてCはAと等しい、という状態でも帰無仮説は成り立っていないのですから、対立仮説の側がそれを含んでいなければ否定として不足します。
この判断は、群の中の散らばりを共通の物差しとして使うことで成り立っています。そのため、データの取られ方について次の3つを前提に置きます。前提が崩れても計算そのものは進んでしまうぶん、判断を誤ったことに気づきにくくなります。
帰無仮説が棄却されたとき言える範囲は、どこかに差がある、というところまでです。AとBなのか、BとCなのか、どの組に差があるかは分散分析だけでは分かりません。組まで特定したいときは、比較の回数を織り込んだ別の手続きへ進みます。逆に水準を2つ()まで減らすと、分散分析の結論は2群の両側の 検定と完全に一致し、 が成り立ちます(片側の 検定とは一致しません)。F分布 の という関係がその根拠で、分散分析は 検定を置き換える別物ではなく、群の数を3つ以上へ広げた一般化だと捉えられます。
接着剤A・B・Cのそれぞれで試験片を3枚ずつ作り、接合部がはがれるまでの荷重(kg)を測りました。
| 接着剤 | 1枚目 | 2枚目 | 3枚目 | 水準平均 |
|---|---|---|---|---|
| 接着剤A | 1 | 3 | 5 | 3 |
| 接着剤B | 4 | 6 | 8 | 6 |
| 接着剤C | 7 | 9 | 11 | 9 |
総当たりで比べるなら A対B・A対C・B対C の3回の検定が要ります。分散分析はこの9個の数値をそのまま使い、 を1回で検定します。一元配置実験 と同じ手順で平方和を分けると ・ が得られ、そこから作った は帰無仮説を棄却します(比の作り方と判定は F比)。検定を3回に分けなくても、同じ9個の数値から結論が出せたわけです。
ここで棄却されたのは、3つの母平均がすべて等しいという主張です。少なくとも1組の接着剤群の母平均に差があると言えるところまでは進みましたが、AとBの間に差があるのか、差があるのはBとCの間だけなのかは、この結果からは決まりません。また、この分析だけでは接着剤の違いが差の原因だとは言えず、因果解釈には無作為割付などの実験設計が必要です。
同じデータからAとCの2水準だけを取り出すと、水準数は2になります。各群の偏差平方和はどちらも 8 なのでプールした分散は 、その平方根は です。 検定の統計量は になります。一方この2水準の分散分析では (自由度1)と (自由度4)から ・・ が得られ、 と一致します。
3つの群の母平均に差があるかを調べるために、2群の母平均の差の検定を有意水準5%で3回繰り返しました。この進め方の問題点として最も適切なものはどれですか。
一元配置分散分析の対立仮説として最も適切なものはどれですか。
接着剤A・B・Cを比べる一元配置分散分析で帰無仮説が棄却されました。この結果から言えることとして最も適切なものはどれですか。
2つの群の母平均の差を等分散を仮定した 検定で調べたところ、 となりました。同じデータを一元配置分散分析にかけたときの 値として最も適切なものはどれですか。