ひよこ統計

母平均の差の検定(分散既知,分散未知であるが等分散,分散未知で等しいとは限らない場合)

統計検定2級

母平均の検定 では、1つの母集団の母平均が基準値と違うかを調べました。今度は比べる相手が基準値ではなく、もう1つの母集団です。母平均の差の検定では、2つの母平均が等しいという帰無仮説 H0:μ1=μ2 H_0: \mu_1 = \mu_2 を置き、標本に現れた平均の差がこの仮定のもとでどれくらい珍しいかを測ります。標本平均には多かれ少なかれ差が出ますから、母集団の差と見てよいのか、標本の取り方によるゆらぎの範囲なのかを見分けることになります。

必要な仮定は2つ、どちらの母集団も正規分布に従うことと、標本どうしが独立に取られていることです。検定統計量はどの場合も「標本平均の差 ÷ その差の標準誤差」の形で、分子の xˉ1−xˉ2 \bar{x}_1 - \bar{x}_2 は共通です。変わるのは分母と、それに応じた帰無分布だけになります。等分散と見なせるときは、片方の標本だけから測るより確かなので、両方の情報を合わせたプールした分散 sp2 s_p^2 を分母に使います(下の表)。両側検定の棄却域は、決まった分布の上側・下側 2.5% 点の外側です(有意水準 5% のとき)。

母分散の仮定検定統計量帰無分布
既知(σ12, σ22 \sigma_1^2,\ \sigma_2^2 )z=xˉ1−xˉ2σ12n1+σ22n2 z = \dfrac{\bar{x}_1 - \bar{x}_2}{\sqrt{\dfrac{\sigma_1^2}{n_1} + \dfrac{\sigma_2^2}{n_2}}} 標準正規分布 N(0, 1) N(0,\ 1) (自由度なし)
未知だが等しい(σ12=σ22 \sigma_1^2 = \sigma_2^2 )t=xˉ1−xˉ2sp1n1+1n2 t = \dfrac{\bar{x}_1 - \bar{x}_2}{s_p\sqrt{\dfrac{1}{n_1} + \dfrac{1}{n_2}}} 、ただし sp2=(n1−1)s12+(n2−1)s22n1+n2−2 s_p^2 = \dfrac{(n_1 - 1)s_1^2 + (n_2 - 1)s_2^2}{n_1 + n_2 - 2} t分布 t(n1+n2−2) t(n_1 + n_2 - 2)
未知で等しいとは限らないt=xˉ1−xˉ2s12n1+s22n2 t = \dfrac{\bar{x}_1 - \bar{x}_2}{\sqrt{\dfrac{s_1^2}{n_1} + \dfrac{s_2^2}{n_2}}} 近似的に t分布 t(ν) t(\nu) (ν \nu は下の式)

母分散が既知なら差の分散を σ12n1+σ22n2 \frac{\sigma_1^2}{n_1} + \frac{\sigma_2^2}{n_2} と正確に書けるので、標準化した統計量は標準正規分布に従います。未知なら不偏分散で置き換えるぶん、裾の厚いt分布に移ります。等しいと見なせないときは各群の不偏分散をそのまま分母に入れるほかなく、この統計量はt分布に厳密には従いません。そこで近似的にt分布とみなし、自由度を次の式で定めます。考案者の名前からウェルチの検定と呼ばれる方法です。

ν=(s12n1+s22n2)21n1−1(s12n1)2+1n2−1(s22n2)2\nu = \frac{\left( \dfrac{s_1^2}{n_1} + \dfrac{s_2^2}{n_2} \right)^2}{\dfrac{1}{n_1 - 1}\left( \dfrac{s_1^2}{n_1} \right)^2 + \dfrac{1}{n_2 - 1}\left( \dfrac{s_2^2}{n_2} \right)^2}
ν \nu :ウェルチの検定で使う近似の自由度、s12 s_1^2 ・s22 s_2^2 :各標本の不偏分散、n1 n_1 ・n2 n_2 :各標本の大きさ

この ν \nu は割り算の結果なので整数になるとは限りませんが、t分布表には整数の自由度しか並んでいません。小数点以下を切り捨てて読めば自由度が小さくなり、上側確率点が大きくなるぶん棄却しにくい側に倒れる、安全側の読み方です。値は n1−1 n_1 - 1 と n2−1 n_2 - 1 の小さいほうから n1+n2−2 n_1 + n_2 - 2 までの範囲に収まります。等分散が成り立たないのに仮定すると、H0 H_0 を誤って棄却する確率が決めた有意水準からずれてしまいます(第1種の過誤と第2種の過誤)。

ここで扱っているのは、別々に選んだ2つの標本、すなわち独立2標本です。同じ人の訓練前と訓練後のようにデータが1つずつ対になっている場合は前提が別で、各対の差を取って1つの標本の検定に持ち込みます(自由度は対の数から 1 を引いた値)。数値が2列に並んでいるからといって、上の表の式をそのまま当てはめてはいけません。

母分散の仮定を3通りに変えると、同じデータで結論が分かれる

2つの教室で同じ小テスト(10点満点)を行い、A教室から 4 人、B教室から 8 人を無作為に選んで点数を調べました。点数はどちらの教室でも正規分布に従い、2つの標本は独立とします。標本平均の差は 6−3=3 6 - 3 = 3 点です。この差が母平均の差といえるかを、有意水準 5% の両側検定で確かめます。

教室点数人数標本平均不偏分散
A2, 5, 8, 94610
B1, 1, 3, 3, 3, 4, 4, 5832

まず等分散を仮定してみます。偏差の2乗和はAが 16+1+4+9=30 16+1+4+9 = 30 、Bが 4+4+0+0+0+1+1+4=14 4+4+0+0+0+1+1+4 = 14 なので、プールした分散は 30+144+8−2=4.4 \frac{30 + 14}{4 + 8 - 2} = 4.4 。分母は 4.4×(14+18)=1.65=1.284 \sqrt{4.4 \times \left(\frac{1}{4} + \frac{1}{8}\right)} = \sqrt{1.65} = 1.284 となり、統計量は t=31.284=2.34 t = \frac{3}{1.284} = 2.34 です。自由度 4+8−2=10 4 + 8 - 2 = 10 の上側 2.5% 点は 2.228 ですから、2.34 は棄却域に入ります。両側の p値 はおよそ 0.042 で、有意水準 5% を下回っています。

ところが等分散を仮定しない立場では結論が変わります。分母は 104+28=2.75=1.658 \sqrt{\frac{10}{4} + \frac{2}{8}} = \sqrt{2.75} = 1.658 と大きくなり、統計量は t=31.658=1.81 t = \frac{3}{1.658} = 1.81 まで下がります。自由度も ν=2.7522.523+0.2527=7.56252.0923=3.61 \nu = \frac{2.75^2}{\frac{2.5^2}{3} + \frac{0.25^2}{7}} = \frac{7.5625}{2.0923} = 3.61 まで落ちるため、上側 2.5% 点は 2.897 へ上がり、1.81 は棄却域に届きません(表から読むために自由度を 3 と切り捨てても 3.182 で、結論は同じです)。両側のp値も 0.152 まで大きくなります。

3つ目の場合も見ておきます。仮に母分散が σ12=10 \sigma_1^2 = 10 ・σ22=2 \sigma_2^2 = 2 と分かっているなら、分母は同じ 1.658 で z=31.658=1.81 z = \frac{3}{1.658} = 1.81 ですが、参照するのは標準正規分布なので境界は 1.96 となり、やはり棄却されません。結局、同じ 3 点の差で棄却できたのは等分散を仮定した場合だけです。ばらつきの大きいA教室のほうが人数が少なく、その大きな分散を全体でならすと差の標準誤差を 1.284 と小さく見積もることになるためで、等分散が成り立たないのに仮定すると誤って棄却しやすくなる、という注意が数値に現れています。

入門問題

全 5 問
問 1

2つの母分散がともに既知のとき、母平均の差の検定に使う検定統計量は、帰無仮説のもとでどの分布に従いますか。

問 2

母分散は未知だが2つの母集団で等しいと見なせるとします。大きさ 6 と 8 の標本を取ったとき、検定に使う t分布の自由度はいくつですか。

問 3

母分散が未知で、しかも等しいとは限らない場合の検定統計量は xˉ1−xˉ2(分母) \dfrac{\bar{x}_1 - \bar{x}_2}{(\text{分母})} と書けます。この分母はどれですか。

問 4

ウェルチの検定で使う自由度について、正しい説明はどれですか。

問 5

同じ 10 人について、訓練前と訓練後の記録に違いがあるかを調べます。適切な扱いはどれですか。