袋に「発芽率 80%」と表示された種子を 100 粒まいたところ、芽が出たのは 72 粒でした。表示より 8 ポイント低いこの数字を、たまたま出の悪い袋を引いただけと見るか、表示そのものを疑うか。母比率の検定は、この迷いを「母集団の比率が本当に 80% なら、これだけのずれはどれくらい起こりやすいか」という問いに置き換えます。母比率を特定の値 とおく 帰無仮説 を立て、ずれの大きさを次の統計量ではかります。
分母は標本比率のばらつきです。母比率の区間推定 では根号の中に標本比率 を入れましたが、検定で入れるのは のほうです。同じ母比率を扱うのだから分母も同じ、と早合点してはいけません。検定は「帰無仮説が正しいとしたら何が起こるか」を調べるので、ばらつきも仮説が与えた値から計算します。推定のほうには仮説がなく、真の比率の見当が しかない、という違いです。
帰無仮説が正しいとき、 は近似的に標準正規分布に従います。あとは有意水準を決めて境界と比べるだけで、両側検定なら 5% で 、1% で が棄却域です。p値 で判定しても結論は同じで、帰無分布が左右対称なので両側のp値は片側のちょうど 2 倍になります(両側検定と片側検定)。ただし、この近似がいつでも使えるわけではありません。もとは 0 か 1 しかとらない観測を足し上げた二項分布なので(二項分布の正規近似)、次の目安を満たすだけの標本の大きさが要ります。
二項分布は飛び飛びの値をとるため、境界を半個分ずらす 連続修正 を入れる流儀もあります。統計検定の問題では「連続修正を行わない」と断ってあることが多く、ここでも修正なしの式で通します。
冒頭の種子に戻ります。仮説は 、 の両側、有意水準は 5% とします。標本比率は で、・ はどちらも 5 を超えているので、正規近似の式を使えます。
分母のばらつきは 、検定統計量は 。 なので棄却域に入り、表示どおりとは考えにくい、と結論できます。p値でも見ておくと、標準正規分布表から なので、両側では 。0.05 をわずかに下回る、ぎりぎりの結果です。
| 根号の中に入れる比率 | (正しい方法) | (誤った方法) |
|---|---|---|
| ばらつき | 0.0400 | 0.0449 |
| −2.00 | −1.78 | |
| 両側のp値 | 0.0456 | 0.0750 |
| 有意水準 5% の判定 | 棄却する | 棄却しない |
誤った方法の列は、区間推定と同じ感覚で を根号に入れてしまった場合です。0.72 は 0.80 より 0.5 に近く、その分だけ は を上回ります。ばらつきは 0.0400 から 0.0449 へ広がり、 は −1.78 まで縮んで、同じデータなのに棄却できなくなりました。境界に近い問題では、分母の取り違えが結論そのものをひっくり返します。
母比率の検定では、 を標準誤差で割って検定統計量 を求めます。この標準誤差として正しいものはどれですか。
「表の出る確率は 0.5 である」を帰無仮説として、あるコインを 100 回投げたところ表が 60 回出ました。検定統計量 の値はいくつですか。
を大きさ 50 の標本で検定します。正規近似を使ってよいかどうかの判断として最も適切なものはどれですか。
不良率がこれまでの 5% を上回ったかどうかを の片側検定で調べたところ、p値は 0.026 でした。同じデータで の両側検定を行った場合のp値はいくつですか。