同じ母集団から標本を取り直せば、そのつど標本平均は違う値になります。だとすると、手元に出た1つの数値がどれだけ当てになるかは、その数値だけを眺めていても分かりません。推定量 が標本ごとにどれだけ振れるか、その振れ幅こそが精度の目安で、これを標準誤差といいます。中身は推定量そのものの 標準偏差 です。
この形は 標本平均の期待値・分散 から出ます。標本平均の分散が なので、その平方根が標本平均の標準誤差です。母標準偏差 が分からなければ、標本から計算した標準偏差 で置きかえます。名前の似た標準偏差とは、そもそも何のばらつきを測っているのかが違います。
| 標準偏差 | 標準誤差 | |
|---|---|---|
| 何の散らばりか | データ1つ1つが平均から離れている幅 | 推定量の値が標本ごとに動く幅 |
| 標本を大きくすると | 母標準偏差 に近づく(小さくならない) | に反比例して小さくなる |
| 標本平均について記号で書くと |
分かれ目は2行目です。人数を増やしても、1人1人の値の散らばり方そのものは変わりません。縮むのは、そこから計算した平均という1つの値の振れ方のほうです。
標本平均だけの話ではありません。式は推定量ごとに違い、標本比率なら 、回帰直線の傾きならまた別の形になります。共通するのは、推定量が標本ごとに動く幅を表すという役割です。信頼区間 の幅も、検定統計量の分母も、ここから作られます。
最小二乗法 で当てはめた直線の傾き を例にとります。これも標本ごとに値の変わる推定量ですから、標準誤差 を持ちます。傾きが 0 といえるかを調べる も、傾きの区間推定も、この値を分母や幅に使って組み立てます(回帰直線の傾きの推定と検定)。
報告書やグラフで「平均 5.0 ± 0.7」と書かれていても、後ろの 0.7 が何を測った値かは、数値そのものからは決まりません。まず凡例や注記にあたって、書き手がどちらを添えたのかを確かめます。標本を大きくするほど標準誤差は小さくなりますから、そこを確かめずに幅の狭さだけで「ばらつきの小さいデータだ」と読むと、実際には調べた人数が多かっただけ、ということが起こります。
ある図書館の利用者全体から9人を無作為に選び、先月借りた本の冊数をたずねました。
| Aさん | Bさん | Cさん | Dさん | Eさん | Fさん | Gさん | Hさん | Iさん | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 冊数(冊) | 2 | 3 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 7 | 8 |
| 偏差 | −3 | −2 | −2 | −1 | 0 | 1 | 2 | 2 | 3 |
平均は 冊です。偏差の2乗の合計は なので分散は 、標準偏差は 冊となります。9人の冊数は平均から2冊ほど離れている、という読み方になります。
同じデータから標準誤差も求まります。母標準偏差は分かりませんから を代わりに使って 冊。こちらが答えているのは「別の9人を選び直したら、平均 5 冊はどれくらい動くか」という問いです。1人1人は2冊前後ばらついているのに、その平均は0.7冊ほどしか動きません。平均をとる過程で、多く借りた人と少なく借りた人が打ち消し合うからです。
ここで使った は、偏差の2乗の合計を で割って求めた標準偏差です。母標準偏差を推定するつもりで、点推定 で扱った不偏分散にならって で割ると となり、標準誤差は 0.71 冊になります。どちらの割り方も使われており、 が大きくなるほど両者の差は縮みます。
人数を36人に増やして測り直したとします。借りる冊数のばらつき方は利用者全体が持っている性質ですから、標準偏差はやはり 2 冊前後のままです。動くのは標準誤差のほうで、 冊まで縮みます。人数を4倍にすると振れ幅は半分になります。標本を大きくしたときに動くのは標準誤差だけで、標準偏差のほうはその影響を受けません。
無作為に選んだ9人が先月借りた本の冊数から、平均 5 冊、標準偏差 2 冊、標準誤差 0.67 冊が得られました。このうち 0.67 冊が表しているものはどれですか。
母標準偏差が 6 と分かっている母集団から、大きさ 36 の標本を無作為に取ります。標本平均の標準誤差はいくらですか。
同じ母集団から取る標本の大きさを 100 から 400 に増やしました。標本平均の標準誤差と、データそのものの標準偏差は、それぞれどうなると考えられますか。
回帰直線の傾きの推定値には、その標準誤差が添えられることがあります。この標準誤差が表しているものはどれですか。