ひよこ統計

回帰直線の傾きの推定と検定

統計検定2級

最小二乗法 で直線を当てはめたら、傾きが −0.15 -0.15 と出たとします。ところがこの数値は、手元にある何十組かのデータから計算したものにすぎず、別の期間や別の対象を調べればまた違う値になります。右下がりに見えたのが本当の関係なのか、たまたまその標本でそう出ただけなのかは、傾きの数値を眺めていても決まりません。そこで、標本から求めた傾きを手がかりに、母集団での傾きを検定と区間推定で扱います。この手続きが回帰直線の傾きの推定と検定です。

母集団での傾きを β \beta 、標本から求めた推定値を b^ \hat{b} と書き分けます。傾きが 0 なら x x がどれだけ変わっても予測値は動きませんから、帰無仮説 H0:β=0 H_0: \beta = 0 は、x x と y y に直線的な関係がないという主張にあたります。ここから先の進め方は 母平均の検定 と変わりません。b^ \hat{b} が 0 からどれだけ離れているかを、その 標準誤差 何個ぶんかに直します。

次の有限標本のt推論では、x x を与えたときの y y の条件付き平均が直線で表され、各観測の誤差が互いに独立で、平均 0・共通の分散を持つ正規分布に従う古典的な単回帰モデルを仮定します。この条件から外れるときは、残差を診断し、データの依存や分散の違いに合う標準誤差を選ぶ必要があります。

t=b^SE(b^) ∼ t(n−2)t = \frac{\hat{b}}{\mathrm{SE}(\hat{b})} \ \sim \ t(n-2)
b^ \hat{b} :標本から求めた傾き(標本ごとに値の変わる推定量)、SE(b^) \mathrm{SE}(\hat{b}) :傾きの標準誤差、n n :データの組数、n−2 n-2 :自由度

切片と傾きの2つを推定したぶん、自由度は n−2 n-2 になります。また、分母の標準誤差そのものが標本から推定した量なので、従うのは 標準正規分布 ではなく t分布 です。その SE(b^) \mathrm{SE}(\hat{b}) は、残差の平均平方 Ve V_e (分散分析表 の残差の行にある量)と x x の散らばりから決まり、残差が小さいほど、また x x の幅が広いほど小さくなります。同じ標準誤差を使えば区間推定もでき、95%なら b^±t0.025(n−2)⋅SE(b^) \hat{b} \pm t_{0.025}(n-2) \cdot \mathrm{SE}(\hat{b}) が傾きの 信頼区間 です。検定と区間推定は次のように対応します。

有意水準5%・両側での判定
検定の判定95%信頼区間と 0傾きについての結論
∣t∣ |t| が境界 t0.025(n−2) t_{0.025}(n-2) を超えたとき棄却する0 を含まない直線的な関係があると判断する
境界を超えないとき棄却しない0 を含む関係があるとはいえない

1列目と2列目は、同じ判断を別の材料から述べたものです。区間の端は b^ \hat{b} から標準誤差の t0.025(n−2) t_{0.025}(n-2) 倍だけ離れた位置にあり、この幅が b^ \hat{b} と 0 の隔たりを上回ったときに区間が 0 をまたぎます。棄却できないことと区間が 0 を含むことが必ず一致するのは、そのためです。次の3点を取り違えやすくなります。

説明変数が2つ以上ある場合は、同じ手続きを係数ごとに繰り返します(回帰係数の検定)。ここで扱ったのは説明変数が1つの単回帰、つまり傾き1本に絞った場合で、そのぶん検定と区間推定の対応まで踏み込みました。

コーヒーの生産量と価格を結ぶ傾きを検定し、区間で示す

国際コーヒー機関がまとめた1991年から2015年までの25年分の資料から、前年の世界のコーヒー総生産量 x x (100万袋)で、その年の日本の小売価格 y y (米ドル/ポンド)を予測する直線を当てはめました。ここでは計算例として、本文の古典的な単回帰モデル、とくに年ごとの誤差の独立性を仮定します。傾きの推定値は b^=−0.14510 \hat{b} = -0.14510 、その標準誤差は SE(b^)=0.02316 \mathrm{SE}(\hat{b}) = 0.02316 です。生産量が増えるほど価格が下がる右下がりの関係に見えますが、この傾きを 0 と考えて差し支えないかを調べます。

帰無仮説は「傾きは 0 である」。検定統計量は、推定値を標準誤差で割って求めます。

t=−0.145100.02316≈−6.27t = \frac{-0.14510}{0.02316} \approx -6.27

自由度は 25−2=23 25 - 2 = 23 です。t分布表で自由度23の上側2.5%点を読むと 2.069 なので、有意水準5%・両側の棄却域は ∣t∣>2.069 |t| > 2.069 。得られた 6.27 はこれを大きく超えており、帰無仮説は棄却されます。生産量と価格には直線的な関係があると判断できます。

ここで自由度を 25 や 24 と取り違えたとしましょう。t分布表の上側2.5%点はそれぞれ 2.060・2.064 で、2.069 とほとんど変わりません。この例では ∣t∣ |t| が 6.27 と大きいため結論は動きませんが、統計量が境界のすぐそばにある問題では判定が入れ替わります。分布を標準正規分布と取り違えた場合も同じで、境界が 1.96 に変わります。

同じ標準誤差から95%信頼区間も作れます。推定値の両側に加減する幅は 2.069×0.02316≈0.0479 2.069 \times 0.02316 \approx 0.0479 なので、区間は −0.14510±0.0479 -0.14510 \pm 0.0479 、すなわち −0.193 -0.193 から −0.097 -0.097 までです。0 はこの区間の外にあり、検定で棄却したことと合っています。読み方としては、生産量が100万袋増えるごとに価格が 0.10 ドルから 0.19 ドルほど下がる、という幅を持った言い方になります。

入門問題

全 4 問
問 1

大きさ n n の標本で単回帰の傾きが 0 かどうかを検定します。検定統計量が従うt分布の自由度はどれですか。

問 2

12組のデータから単回帰の直線を当てはめたところ、傾きの推定値が 0.6、その標準誤差が 0.15 でした。傾きが 0 という帰無仮説を調べる検定統計量の値と、それが従う分布の組み合わせはどれですか。

問 3

ある単回帰で、傾きの95%信頼区間が −0.19 -0.19 から −0.10 -0.10 と求まりました。有意水準5%の両側検定で、傾きが 0 という帰無仮説を調べたときの結論はどれですか。

問 4

大きさ n n の標本から求めた傾き b^ \hat{b} について、95%信頼区間を表す式はどれですか。ここで SE(b^) \mathrm{SE}(\hat{b}) は傾きの標準誤差です。